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転写因子の相互抑制によって分化運命が選択される機構

 未成熟神経細胞における移動後のサブタイプ決定の発見から、そもそもII/III層神経細胞とIV層神経細胞は近い性質を持ち、未成熟な段階ではサブタイプが完全には決定していないと考えられた。II/III層細胞とIV層細胞の分化過程を詳細に調べた結果、これらは初期の段階では共通して転写因子Brn2(将来はII/III層で発現する)を発現していることを見出した。将来のIV層細胞では、その後別の転写因子Rorbの発現が上昇し、Brn2の発現は減少する。興味深いことに、Brn2とRorbの発現はこのようにダイナミックに変化しているのにも関わらず、両者は発生期のどの時期においても相互排他的に発現している。そこで、Brn2とRorbの関係を調べたところ、両者が互いに抑制し合うというメカニズムを発見した。さらに、それぞれの転写因子がII/III層細胞とIV層細胞への分化に必須であることを見出した。相互抑制の機構は、結果的にポジティブフィードバック機構として働くものであることから、この機構は未成熟なII–IV層細胞がII/III層細胞とIV層細胞に分化する過程において、どちらか一方の転写因子が発現すること、すなわち両方の特徴を同時に有する中途半端な神経細胞にはならずに二者択一的に分化する現象を保証するものと考えられる(Oishi et al., PNAS, 2016)。

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